パイロット版とは

アメリカのドラマを見てみると初回は「pilot: パイロット」という題目がついている事がほとんどです。

私が初めてこの言葉の意味を知ったのは25年ほど前、クエンティン・タランティーノ監督の「パルプフィクション」で知りました。

マーセルス(マフィア)の子分、サミュエル・L・ジャクソン扮する「ジュールス」とジョン・トラボルタ扮する「ヴィンセント」が親分をコケにしたビジネスパートナーを”take care”しに行くシーンです。

ジュールス(手前)とヴィンセント(奥)

V: What’s her name?

彼女の名前は?

J: Mia.

ミアだ。

V: Mia. How did Marsellus and her meet?

ミア。マーセルスと彼女はどこで知り合ったんだ?

J: I dunno. However, people meet people. She used to be an actress.

知らん。いずれにせよ人と人は出会うもんだ。彼女は女優をやってたらしいな。

V: Oh, really? She do anything I’d have seen?

おぉ、そうなの。俺見たことあっかな?

J: I think her biggest deal was she starred in a pilot.

たぶん、彼女の一番の作品はパイロット版だけだ。

V: Pilot? What’s a pilot?

パイロット? パイロットって何?

J: Well, you know the shows on TV?

テレビ番組があるだろ。

V: I don’t watch TV.

俺はテレビ見ねえ。

J: Yeah, but you are aware that there’s an invention called television, and on this invention they show shows, right?

あぁ、でもテレビと呼ばれるものが発明されて、そこに番組が映ることは知ってるだろ?(少しバカにしているように)

V: Yeah.

あぁ。(バカにすんなよ、とうんざりした様子で)

J: Well, the way they pick TV shows is, they make one show, and that show’s called a “pilot”. And then they show that one show to the people who pick who pick shows, and on the strength of that one show, they decide if they want to make more shows.

テレビ番組に何を選ぶかってえと「パイロット版」と呼ぶ一回目の番組を作って、どれにするかって選ぶ偉いさんが見るんだ。それでどれを続けるか決めるんだ。

Some get chosen and become television programs. Some don’t become nothing. She starred in one of the ones that became nothing.

選ばれればシリーズ化。選ばれなけりぁお蔵入り。彼女が出たのはお蔵入りになったやつだ。

パイロットの語源

ずいぶん前から何故パイロットと言うのか不思議に思っていたので調べてみました。

先ずはOxford Dictionary of Current Englishから。

pilot n. 3 something done or produced as a test before introducing it more widely.

何かを大掛かりに「する」あるいは「作る」前にテストする事。

とある。ちゃんと載ってますね。

次に検索してみました。

「パイロットの語源」で検索すると「一般社団法人日本船長協会」にありました。

諸説あるようですが、

日本水先人連合会のホームページにはパイロットの語源として次の囲み記事がある。

「パイロット(PILOT)の語源は、オランダ語のPIJLOOT で、PIJL(棒)とLOOT(測深鉛)を合成した言葉で、『水路を測深して船をすすめる者』を意味しています。一説では、ギリシャ語のPEDON(舵、舵板)に由来し、中世のイタリア語PEDOTA を経て、イギリスでPILOT になったともいわれています。」

(さらに日本水先人連合会、というホームページを引用しているようです)

「origin of the word pilot」で検索すると、Online Etymology Dictionaryというサイトが出てきました、その中には

1510s ” one who steers a ship,” especially one who has charge of the helm when the ship is passing in or out of harbor, from French pillote(16c.), from Italiano piloto, supposed to be an alteration of Old Italian pedoto, ……

と書かれてあり「船を操縦する人」とあります。他のサイトには「地図を持った人」という説明もありました。

パイロットといえば今ではすっかり飛行機の操縦士を想像しますが、先にあったのは船の操縦なんですね。

海でも空でも共通するのは「道がない」ことです。飛行機では曇ってると前が見えないし、船ではシケの日に前が見えません。

最近でいうと、たしかテスラモータースの車の自動運転システムは「オートパイロット」だったかと。

つまり”pilot”には「この先何があるか見極める」という意味を含んでいそうです。

英語を母国語とする人たちにとって”pilot”とは、このような意味を含む言葉だと認識しているのでしょう。

このような事から最初に作る番組、この先どうするか見極めるための番組を”pilot”と呼ぶことになったのだと思います。

【単語&フレーズ】invention/発明、発明品 on the strength of/~を根拠にして

【感想】映画のこのシーンの不気味さは、これからビジネスパートナーを「take care: 消しに行く」という時に、なんともフランクな会話をしているという点です。さすがにここまで普通でいられるもんでしょうか。こんな事もこの映画の魅力の一つです。

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